北総ロザリオ文芸部

タイトル一新です。離婚(予定)後の自由満喫と今までの回想録(メモワール)

愛しのオットーと、麗しのフラムクーヒェン

 日本の宅配ピザは、高い。

宅配だから人件費込で高いのか、美味しいから高いのかは定かではないけれど、

ドイツにいた頃通っていたVHS(Volkshochschule=市民高等学校:市民講座)への通学路にはピザ屋さんが3軒あり、その内2件は某有名チェーン店D で、1枚買うともう一枚はかならずFrei(英語のfree:つまり無料です。ただし持ち帰りに限る)でした。もう一軒はやはりコチラも有名チェーンのP。こちらも基本、持ち帰りは2枚目が無料、最後の1軒は移民イタリア人の夫婦のピッツアスタンド。ピザ生地がめちゃくちゃ日本人好みのクリスピー。ピザソースも美味しくて、さすがイタリアン!と感心していた。しかも1枚が大きくて安い。両手で抱えるほどのピッツアが1枚3〜4Euro( ユーロの事。ドイツ語ではオイロと読みます。あちらの感覚では500円くらい)

それでも帰国後は、和食に対して飢餓状態にあったワタシ達は、食べるラー油から始まり日本のお惣菜の豊富さにすっかりやられ、丸々ひと月は飽食の限りを尽くした。

中学受験を希望した息子が、無事志望校に(ギリギリ)合格したのでお祝いとばかりに二人で所用で上野に行った際、息子の希望でイタリアンに入った。

 

「美味しいピッツアが食べたい」

あちらでの生活ですっかり食が向こうよりになった息子は、チーズやバター、牛乳の味についてウルサイ小姑のような少年になって帰国したが、その矢先に義実家で食べた某店の宅配ピザについて、文句を言っていた。

「あれがピッツア?ピザトーストかと思った」

字面だけで見ると本当にイヤな男だが、まあ気持ちも分かる。

何故ならドイツにいたとき、家の隣が美味しいイタリアンを出すビストロだったので、休日はよくそこで美味しい食事をいただいた。息子のイタリアンの味の基準は、完全にそのビストロなのだ。

上野にあるチェーンのリストランテに入り、ナイフとフォークとグラスが並べられると息子はとても喜んだ。そういうものが外食だったので、懐かしいと思ったそうだ。

フレッシュチーズに飢えていた12歳の少年は、ウェイターさんに聞きながらおすすめのピッツア・ビスマルクを頼んだ。

モッツアレラチーズのシンプルなピッツアに半熟玉子が乗っているもので、チーズ好きにはたまらない。よく伸びるチーズに狂喜しながら、ナイフとフォークで器用に切り分けていく。息子から分けてもらったものを頬張る。

んん!!これは・・・美味い!!!

チーズとピザソース、トッピングの生ハム、半熟玉子が絡み合い、絶妙過ぎて唸ってしまったと同時に、ここひと月ばかりの「和食祭」が一気に忘却の彼方に吹っ飛んで、欧州の味を憶えていたワタシ達の舌は再びチーズとトマトソースの甘美な誘いに、敗北した。

食の太くないはずの当時の息子が、あまりの美味しさにワタシにひと切れくれた後は大人の顔よりも大きなピッツアをあっという間にたいらげてしまった。

「ボク、これもう1枚食べられる」

「お母さん、またここに来ようね」

それから今に為るまで彼は近所のイタリアンの看板のメニューをチェックしながら、

「ピッツア・ビスマルクがないなら駄目だね」

とまで言いのける。そもそもビスマルクが誰なのかは、つい最近知ったらしいが、未だに山盛りの水牛のモッツァレラをトマトと一緒に食べる夢を見るそうだ。

 

同じくドイツにいたころ、秋にはフラムクーヒェンが街で売られた。

薄くて長方形のピザ生地のようなものにサワークリーム、細切りベーコンとスライス玉ねぎが乗ったものを高温で焼くのがベーシックなフラムクーヒェンで、色々なヴァージョンがある。ワタシは近所の小さなホテルのレストランで出すスモークドサーモンとリーク(日本の長ネギに近い)のフラムクーヒェンがお気に入りだった。サワークリームの甘酸っぱさとコクにサーモンの旨味がいい塩梅でネギが脂っこさを抑えてくれる。家族や友人たちと何種類かオーダーして分け合うとワインも進み、楽しく、美味しかったのが、好い思い出だ。

(秋には、と言ったが実は通年クナイペ(居酒屋)やレストランなどで出している所もあったが、11月の聖マルティンのラテルネ祭のころからヴァイナハツ(クリスマス)の頃まで、よく何かの行事の折に街頭で売っていたのを憶えている。宗教的な意味合いなぞではなく、単に暖かい食べ物だからか?)

 

ここまで書いたら、ずいぶんお腹が空いてきた。

今年のWeihnachts( クリスマス)にでも、たまにはピッツアなぞこしらえようかな、と思うけど、うちには電子オーブンレンジしかないのだった。

 

そうか、だから宅配ピザなのか。(←今更白々しいケド)

 

『おお、愛しのオットー(ビスマルク)よ、

麗しの君、フラムクーヒェンよ、

かぐわしきチーズとサワークリームの衣を纏い、

わが心と胃袋を満たしたまえ・・・』

 

f:id:katrinka:20181209155434j:plain

フラムクーヒェン