北総ロザリオ文芸部

タイトル一新です。離婚(予定)後の自由満喫と今までの回想録(メモワール)

サイレント・クリスマス

ロンドンで暮らした時、その2ヶ月後に渡英後初めてのクリスマスを迎えたワタシ達は、まず驚いた。

 

お店やパブがすべて閉まり、バスや電車もイヴの夜からクリスマス当日まで運行がなくなる。街が完全に「クリスマス休暇」となってしまうのだ。

 

しかしそこは観光の街でもあるロンドン、

 

セントラルと呼ばれる地区、いわゆるピカデリー・サーカス大英博物館、ビッグベンなぞがある辺りは開いている店もあればパブで観光客がビールを呑んでいる。タクシーもまばらだがちゃんと走っているが、バスが走っていないだけでガラガラのロンドンの道を体感出来るのはなかなかないので面白い。

一方地元の西ロンドンは、とても静かで、

バス通りやハイストリート(メイン通り)に続く道にも人っ子ひとりいない。

パブは予約した者たちの宴会場になっていて、ふらりと入る事は出来ず、

スーパーマーケットも、インド人の経営するコンビニ風雑貨店もレストランもカフェも、クリスマスには閉まっていて、時折通る自家用車の音や犬の散歩ですれ違う人数人のみが動いている街になっていて、どんよりした曇り空からチラチラ降る細かい雪が、より一層のサイレントを演出していて、

「ああ、これこそがクリスマスなんだ」と

酔えるほどの雰囲気を醸し出す。

そうしてハイストリートに出てみると、角の店は開いている。

ポーランド移民がやる八百屋だ。

のぞいてみると、いつも子どもたちがチョコ・バーを買う店のおじさんが野菜をならべながらHappy christmas!と言ってきた。

「今日はクリスマスホリディなのに、休まないの?」

というと、彼は大真面目な顔で言った。

「人が休んでいる時こそ働かなきゃ、金にならないだろう?」

 

ポーランド人はドイツでも働き者の代名詞的存在で、様々な職種の出稼ぎ労働者の多数を占める存在だった。なんだかその労働への感覚が、日本人に似ているとさえ思った。

イギリスでもドイツでも知り合いになったポーランド人は、皆働き者だった。

店のオジサンからりんごをひと袋買って家に戻ると、夫がTVをつけっぱなしにしソファで半分寝ながらブツブツ言っている。

「なんにも面白いことないよな、こっちのクリスマスは」

 

そんなことはないのにな。街は静かで、空からは雪、本物のクリスマスはこういうものなのだと理解ったからだ。

子どもたちは人生ゲームで遊んでいたので、

それからのろのろと晩ごはんの用意を初めた。

その日は、ゆっくりとチキンを焼き、ピラフをつくり、温野菜を盛り、シェリーを飲んだ。派手なクリスマスケーキのないクリスマスははじめてだけど、なんだか外の静けさとオレンジの街灯がポツポツ灯る夜の風景に気持ちが落ち着き、テレビからは教会の聖歌隊が歌う賛美歌が流れてくる。

子供の頃の日本で祝ったクリスマスとはまた違う、不思議な満足感があった。

ドイツも概ねそれと同じクリスマスだった。どこに行っても軒を並べるWeihnachtsmarkt(クリスマスマーケット)の楽しみはあったが、基本は家でゆっくり派が多かったように思う。

日本人のお正月が特別なように、彼らはクリスマスを神聖なものとするので人々は厳かな気持ちでそれを迎える。そういう気持ちになれる日を大切にする事を、世界中のどんな人々も持っているのだと思えた、貴重なクリスマスだった。

 

よく尋ねられたのが、以下の質問。

「日本人はクリスチャンなの?何故クリスマスを祝うの?」

 

ワタシは決まってこう答えた。

「日本には(八百萬と言って)色んな神様がいるから、どんな神様も大切にする気持ちがあるの。」

 

理解されたのかそうでないかは、神のみぞ知る。